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【経済トピック】地域の交流拠点With Café(ウィズカフェ)で芽生えた変革の胎動

新たな価値は混沌から
地域を変える交流会、異端公務員が呼びかけ

 

 

異端の公務員の呼びかけに定員の2倍となる80人が集まった。7月9日、高松市のWith Café(ウィズカフェ)で、第1回「オープンイノベーション地域交流会」が開かれた。仕掛けたのは公務員の寺西康博さん。高松琴平電気鉄道(ことでん)の真鍋康正社長ら寺西さんの熱意にほだされた仲間が代わる代わる登壇し、地域の未来を良くするためのアイデアを提示した。会の通称は「寺西ロックフェスティバル」略して「テラロック」に決まる。最終的に何を創り出せるか分からない。だが、混沌としながらもエネルギーに満ちあふれた雰囲気に、寺西さんの言う「本質的な何か」が生まれる可能性を感じた。(共同通信社高松支局記者 浜谷栄彦)

上滑り

会の名称からして目指す方向がよく分からないのに、寺西さんは冒頭あいさつで「認識のリフレーム」「熱量純度の高い多様で稠密な場」「夢の実現を媒介」と意味不明の言葉を連発した。

 

 

最初に登壇した真鍋さんは「ちょっと意味がわからない。言葉が上滑りしている」と冷静に突っ込み、「オープンイノベーションという難しい言葉ではなく、ここに集まったのは寺西君の仲間だから、寺西ロックフェスティバル、テラロックにしたら」と提案する。

会の通称が決まり、ようやく場の雰囲気が落ち着いた。

危機感

真鍋さんは「創業支援」をテーマに講演した。地方の人口減少がさらに進むと「これまでのサービスは維持できない」と指摘。首都圏に人口が集中した結果、地方との所得格差が広がるだけでなく、考え方やリテラシーに関しても開きが生まれ「米国のような社会の分断が日本でも起きている」と危機感をあらわにした。

さらに「人手不足の進行によって誰もが一方的な消費者ではいられず、供給者側に回る必要が生じる。官と民の壁もなくなり、一人で複数の役割をこなすことが求められる」と持論を展開する。その中で、ことでんは人口が減っても人々が円滑に移動できるためのシステムをつくり維持する会社だと説明した。

 

インフラを持続可能な形に最適化するべきだが、一方で「永遠に高品質なサービスを維持するのは不可能」と指摘する。「人口が少なくなっても維持できるシステムを考えるのが地方にいる僕らの大きな仕事だ」と話し、目指すべき方向を示した。

 

真鍋さんはまた、地方の人材不足が解消しない要因は「面白くて給料が高い仕事が少ないから」と喝破する。若い人が魅力を感じる産業が育つように将来性のあるベンチャー企業の支援を続けているが、個人でやるには限界がある。年配の経営者が若手に人を紹介したり、資金を出したりする仕組みづくりは喫緊の課題だと強調した。

真鍋さんは最後に、米国人が事業を起こす時は事前の準備や調整に手間をかけすぎず、まず着手することを紹介する。「一人が勢いに任せてやることの価値は大きい」と寺西さんが独力で80人を集めたことを高く評価した。

そして「挑戦する人を応援する、優しく見守る文化が必要だ」と述べ、話を締めくくった。

若者に学べ

真鍋さんは講演後、参加者が見守る中で寺西さんと意見交換した。交流会の意義や目的を問われた寺西さんは、まず、つながるはずのなかった人同士がつながることを挙げた。

 

 

具体例として、交流会に学生服リユースショップ「さくらや」の馬場加奈子社長と徳島県で食用花の生産を手がける「オーゲツ」の大栗克俊社長が同席している事実を示した。その上で「意欲しかない、やりたいことがある、という若者が現れた時、大人たちが、人を紹介したり、お金を出したりという形になれば」と話した。

 

真鍋さんは「将来性のあるベンチャー企業の支援で金融機関の役割は大きい」としながらも、歴史的な低金利にあえぐ銀行が挑戦的な融資をするのは難しいと同情した。近年はクラウドファンディングなど資金調達の手法が多様化している。

 

しかし地方では「まだまだラインナップが足りない」と指摘。さらに香川県民が日本トップクラスの貯蓄高を持ちながら、意欲とビジョンを持つ若い起業家に必要なお金が行き渡っていない現状「腹立たしい」と表現し、「だからこそ(自分は)挑戦している」と話した。そしてテクノロジーの急速な進歩を踏まえ、経営者こそ変化の最前線にいる若者に学ぶべきだと訴えた。

2人の議論は交流会の価値を高める手法にも及んだ。真鍋さんは10年前に東京からUターンした後、さまざまなイベントに呼ばれたが「その後につながるものと、主催者の自己満足で終わるもの」があったという。大事なのは、その場で盛り上がって終わるのではなく「参加者にどういうフォローやサポートができるか、お節介的なかかわり方ができるかだ」と述べた。

参加者を主体的にかかわらせていく仕組みづくりも重要といい、「それを寺西さんだけに求めるのは酷な話。運営していくチームやコアメンバーが意識しないと」とウィズカフェに集まった人たちに理解を求めた。

創造的な街

続いて筆者が、米国で最も住みやすく創造的な都市と呼ばれるポートランド市の視察結果を報告した。人口65万人の市にはクラフトビールの小規模醸造所が78軒、コーヒーの焙煎所が50軒もあり、それぞれパブやカフェを併設している。客でにぎわう店内は開放的な雰囲気で、そこに行けば常に新しい出会いと刺激がある。コミュニティーづくりに貢献しているのを実感した。

 

 

市中心部の歩道は広くて歩きやすく、路面電車など公共交通機関も発達している。だが、こうした街の魅力は古くから備わっていたわけではない。むしろ1960年代のポートランド市は自動車の増加による深刻な大気汚染に悩まされ、基幹産業も衰退。人口が流出する都市だった。73年に就任した当時32歳の革新派市長の強いリーダシップによって連邦政府主導のまちづくりから脱却、およそ30年をかけて創造的な街へと変貌を遂げた。
市長らが反対派の市民と粘り強く議論を重ねたことや、オープンで自主独立の気概を持つ市民の精神性が進歩を下支えした点は特に強調しておきたい。もうけた企業は利益の一部を奨学金として寄付し、おいしいビールをつくった醸造所は同業者にノウハウを提供する。成功の果実を独り占めせず分かち合うポートランドの文化を心底うらやましく思った。

 

そして筆者が最も伝えたかったことは、高松も暮らしやすさでは負けていないという事実だ。コンパクトな街、ことでんなどの公共交通機関、温暖な気候、食の豊かさ、瀬戸内海の美しさ。高松市民は素晴らしい街に住んでいることをもっと認識したほうがいい。

 

あえて足りない点を挙げるなら、多様な価値観や新しい考え方を受け入れる柔軟な姿勢だろう。独占より分かち合う精神が地域を豊かにすると確信している。

怒涛のプレゼン

その後は一人持ち時間5分で、以下の方々がプレゼンした。

 

●秋久智哉さん【合同会社ネコノテモカリタイのこれから】

みんなで遊ぶように事業を創りましょう!

 

 

●山田邦明さん【マンガへの感謝を3分で伝えるマンガピッチ】

いつもマンガに救われてきた。その感謝の気持ちを作者まで届けていきたく、全国でイベント開催。 岡山、香川、鳥取、名古屋、東京では開催決定。 弁護士を辞めてまで挑戦するマンガピッチ。

 

 

●森寿貴さん【マイナンバーカードの取得をご検討ください】

官民の様々な手続きを電子化するための切り札であるマイナンバーカードの取得をご検討ください。

 

 

●橋本貴世さん【里海づくりのススメ】

最近、海に行ってますか?里海コンシェルジュが、海で”楽しく”活動したい!など、あなたのご要望をおつなぎしますよ!かがわの里海づくりにレッツチャレンジ!

 

 

●渡辺大さん【毎週水曜持ち寄り飲み会】

“適当な”メンバーで”適当な”楽しさでやってますよ〜お気軽にお越しを。

 

●藤田圭一郎さん【岡山スタートアップ事情最前線】

中四国エリアにエンジェル・シード向けVCをつくりたい!

 

 

●安川幸男さん【アトツギベンチャー*プロジェクト】

地方を支える地域企業は今、事業承継という課題を抱えている。それを解決するのは〈起業家精神〉を持つ若手アトツギたち。彼らは家業を活かし、香川に新たな価値を生み出していく!

https://atotsugi-vc.jp/

 

そして谷益美さんが登壇者の発表が終わるたびに見事なグラフィックレコーディングと寸評を披露し、会に華を添えた。

主催者の寺西さんに聞いた「会の目的と展望」

意識を高く持つことを揶揄する風潮。未来への情熱を持つ人が個性を発揮しにくい、同調圧力が強く変化や失敗を嫌う空気。人口減少や少子高齢化などの外的な要因よりも、こうした冷笑的でリスクを避けようとする雰囲気が蔓延していることに私は強い危機感を持っていました。

 

ただ、そのような逆風にあっても、情熱を持ち続け組織や社会の変革に挑戦する人と数多く出会ってきましたし、その人を支援し、ときには庇護する人たちとも関係性を築くことができました。

 

 

私自身、挑戦する人からの相談には一つひとつ真摯に応えてきたつもりですし、持っている知識や情報の提供と人への橋渡しをできる限り行ってきました。しかし、私個人で実施できる支援は取るに足らないものです。何より私に届いていない悩みが山ほどあることを考え逡巡していました。

その苦悩を社会的に意味ある行動に昇華しようと一念発起し、一個人として開催したのが本会です。

 

本会の目的は、未来に必要な知識や情報を獲得できる場をつくり、挑戦する人を支援できるコミュニティを形成することです。

With Caféを運営するアップ・パートナーズ代表の吉田直由さんが目的に共感し「学生と地元企業をつなぐ場」として2017年にオープンした空間を提供してくれたことで、その第一歩を踏み出すことができました。

肩書きや立場が異なる参加者80人の共通点は「情熱を持ち、何かに挑戦している」こと。この前向きなエネルギーを混ぜ合わせることで、地域や社会を変革していく「本質的な何か」が生まれるのではないか。答えや道筋が全く見えないなか、勢いに任せ走り始めました。

 

結果として、私の予想を遥かに上回る濃密な時間が創られました。真鍋さんの本質的な問題提起は、新しい物事の捉え方を示すものでしたし、「挑戦する人を応援する、優しく見守る文化が必要だ」との言葉は私をはじめ参加者を勇気づけました。浜谷さんが訴えた「多様な価値観や新しい考え方を受け入れる柔軟な姿勢」と「独占より分かち合う精神」は、本会が目指すあり方そのものでした。7人のプレゼンターは未完成ながら魅力的な活動を圧倒的な熱量で発表し、会場に感動がもたらされました。

 

 

参加者同士の交流時間には、自由闊達に意見が交わされ、アトツギベンチャーやマンガピッチの開催が決定するなど、この場を起点に複数のプロジェクトが始動しました。このほかにも、書ききれないほどの新たな学びと行動が生まれ、本会の目的である「知識や情報の獲得」と「挑戦する人の支援」が参加者一人ひとりによって具現化されていきました。

 

今後、最も重要なことはこのコミュニティを一時的な熱狂や関係づくりにとどめず、協働など次のステップに進んでいく仕組みを構築し、持続可能とすることです。

そしていつの日か、多様性や不確実性が受け入れられる、より良い未来への変革につながるコミュニティとなることを夢見て、これからも挑戦を続けていきます。