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ライフ

未来人Vol.3 横山昌太郎さん 

“ 森の多様性と循環に学ぶ 自分らしい生き方 ”

これからのまちづくりに尽力する「未来人」との対談を通して、

住みやすい理想の街を考える。

 

これからのまちづくりに尽力する「未来人」との対談を通して、住みやすい理想の街を考える。

まんのう町で森歩きのガイドを務める横山昌太郎さん。ツアーでは、横山さんが穏やかな語り口で生命の起源や森の生態系を解説する。「森の生き物には独自の生存戦略があり、自分の居場所をつくり出している。例えば、ふみにじられても葉がなかなかちぎれないオオバコは、踏まれやすい道という過酷な環境でも生き残ることができる」。逆境をプラスに変えるしなやかな生き方、そうした多様なライフスタイルから循環が生まれる。森を五感で楽しみながら、生命38億年の歴史に思いを馳せ、人の生き方や社会のあり方を考える森のツアー。新しい観光の形に挑戦する横山さんに理想の街を聞いた。

 

▽ 森に救われた
寺西  横山さんにとっていい街とは。
横山  人間にとって自然は必須でかけがえのない存在なのに都会には少ない。だから、人は息抜きのため自然の中に出かけていく。街の中にもっと緑を増やしたいという思いを大学卒業時から持っている。街で暮らす日常でも、木々を見上げたり、風のさざめきや鳥の声を聴いたり、日光の暖かさを感じられる。生活の中でゆとりや余白を実感できる時間や環境があることがすごく大事。

寺西  これまでどのような土地に住んできたか。

横山  11回ほど転居している。三重県出身で公害(四日市ぜんそく)の歴史がある場所で育った。大学で森について学び、1997年に国立公園の自然保護官(パークレンジャー)として環境省に入省し、東京、横浜、千葉で暮らした。東京では歌舞伎などを楽しんだし、地方では姿を消した商店街がたくさん残っていた。岩手や栃木で働いた後、2006年に環境省を退職し、長野県軽井沢町の森をフィールドに、『星野リゾート』のエコツアー団体のガイドを務めた。2016年に香川県に移住。数年間の試行錯誤を経て、40代が終わろうとする時、これから自分が何をして生きるか考えた結果が森のガイドだった。豊かな森がある大川山(だいせんざん、標高1043m)にアクセスが良く、ゆったり暮らせる自然豊かな場所、まんのう町を選んだ。

寺西  香川県の印象は。

横山  穏やかで優しい。おむすびのような美しい山が点在し、瀬戸内の穏やかな海と島々もある。災害も少ない。欲を言えば、もっと原生的な自然や大きな川があれば良いとは思う。ただ、香川県という行政界は人間が決めたもの。四国という自然の島で見れば、石鎚山や剣山、仁淀川や四万十川、瀬戸内海に太平洋、素晴らしい自然がたくさんある。

寺西  森のガイドを通じてどのような事を伝えたいか。

横山  私は環境省を退職した時、開放感を感じつつも、安定した官僚からドロップアウトした自分自身に失望もした。森が多様な生き方を教えてくれた。それぞれの生命にその種ならではの生き方と役割があり、つながり、循環している。そういう森の姿に救われた。都会の暮らしに息苦しさを感じている人は多い。私もその1人だった。理由の一つは、自分らしく生きられないこと。就業者の9割が雇われ、自分の時間と労力を提供する替わりに給料をもらう図式が成り立っている。50年ほど前の高校生へのアンケートでは「何のために働くか」という問いに対し「世のため、人のため」と答えた生徒が圧倒的に多かった。今、多くの大人は生活のために働く。香川県に移住した時、自分で複数の仕事をして生きていこうと決めた。独身ということもあって、やってみたら案外できた。時間を自分の裁量で配分できるし働き方も自由。自分らしい生き方につながった。自然の38億年の歴史では、オンリーワンの生き方を獲得しないと過酷な競争の中では生き残れないが、人間社会では競争に敗れても自然界のように消滅しない。どんどんチャレンジすればいいと伝えたい。

 

▽ 自分らしく

寺西  ガイドツアーで横山さんの役割を言葉で表すと。

横山  (化学反応を引き起こす)触媒になりたい。知識はスマホが提供してくれる。ガイドが教えるのではなく、お客様が想像力を膨らませたり、自分事として何かを考えるきっかけをつくる。私の人生は挫折の連続だった。とても成功例とは言えないが、50歳手前になってもこんな感じでやっていけるなら、自分も何かやってみようかなと思ってもらえるのでは。元役人の前例主義ではないが、ちゃんと前例ありますからという話(笑)。

寺西  どのように自分らしさを見つけるか。

横山  私は公務員と民間を経験し、今はフリーランス。自分のことは意外と分かっていない。多様な経験をし、初めて自分らしい働き方や暮らし方が見えてきた。年齢に関わらずいろいろと試して成功や失敗を積み重ねないと自分の形は分からない。若い人はなおさら。植物だと、日なたでしか生きられないものが日陰で芽を出してしまえば枯れるしかないが、人間はそうではない。学校に行かなくてもいいし、仕事もたくさん失敗すればいい。失敗を積み重ねて分かる自分らしさがある。

 

▽ 紡がれた命

寺西  森の生態系から人間は何を学べばいいか。

横山  社会の多様性と包摂。生き方の違いを認める大切さは自然から学べる。例えば、背の高い木が「背の低い草なんて価値がないから枯れろ」とはならない。でも人間は考え方が違うと、排除しようとすることも目立つ。森では全く生き方の違うものが、同じシステムの中で暮らしている。人間社会も循環し持続可能となるには、多様なライフスタイルが必要だ。

寺西  社会構造からどのような息苦しさが生まれているように見えるか。

横山  世界各国が労働時間を短くしようと働き方改革に取り組んでいる。働くことが嫌だからと捉えることもできる。私はガイド業以外にも講師や草刈りなど複数の仕事を楽しんでいる。食べ物と一緒で、好きなものばかり食べると飽きる。仕事をかけ持つことで単調化や慣れを防げるし、アクシデントがあった場合のリスクも減らせる。なにより人や社会、環境など何かの役に立っていると感じられることは嬉しい。我慢して時間と労力を提供しお金を得る働き方が、世の中を息苦しくさせる一因ではないか。

寺西  より良く生きるとは。

横山  自然の中では子孫を残さずに絶滅していくものがたくさんある。私は独身で子どももいない。子孫が途絶えてしまう。では私に生きる意味はあるのか。森で「暗い場所に生えて枯れるしかない木の芽生えは何の役に立っているんだろう」と考える。その答えを持っていないが、そもそも役に立つかどうかという考え方が間違っているのでは。どんな生き物も38億年前に生命の起源が誕生してから途切れず続いている。それまでの生命の歴史を背負っている奇跡的な存在。人間も同じ。祖先の誰一人欠けてはいけないし、さかのぼっていくと単細胞生物まで行き着く。役に立つ、立たないなどと言う以前に、命があること自体が奇跡的。それを大切にしようという発想が必要だ。それに人間は他の人のことや社会のこと、他の生命も含めた環境全体を考える理性と想像力、行動力を持っている。それらを活かしてより良い社会・環境を生み出す生き方が良い生き方ではないか。

 

▽ 幸せに生きられる社会

寺西 どんな地域や社会にしていきたいか。

横山  死ぬまで働こうと考えている。根本にあるのは、人として幸せに生きられる社会やライフスタイルが広がってほしいという思い。私の母は45歳、父は49歳で亡くなった。私は49歳になった。両親とも不幸な死に方だったので、幸せに生きるとは何だろうとずっと考えてきた。一人ひとりが幸せに生きられる社会にしたい。このツアーは大川山に限らずどこでもできる。この活動に共感してくれた人が、別の場所でやってくれたらうれしい。地域の人たちがより幸せに暮らすためのツーリズム。新しい観光と言うと大げさかもしれないが、人の生き方や社会のあり方に関わるような観光にしていきたい。

寺西  地域に住む人の精神的な充足が重要だ。

横山  新型コロナウイルスの流行をきっかけに、テレワークなど新しい働き方が定着しつつある。テクノロジーの良い面を活用しながら、もっと地方移住が進めばいい。自然豊かなところで生き物として幸せな生き方をする。もちろんお金は大事。私は早くに両親を亡くし、学生時代にお金で苦労したのでよりそう思う。森の中で光を求めて植物が生きているのは、ある意味お金を求めて人間が生きているのと同じ。森の植物は受けた光を葉っぱにしてそれを動物が食べて、その死骸をキノコが土に還して、循環させている。私たちの社会ももっとお金が循環する形になれば。今は富が一部の人に集中してしまっている。過去に世界の富豪トップ8人の資産額の合計は、最も貧しい36億人の資産額と同じという調査結果もある。自然界では、生きるために必要な分だけを持ち、循環させている。富の偏在や格差を解消するのは私たち一人ひとりの価値観だ。

寺西  価値観にどうアプローチするか。

横山  自分と社会、2つの視点が必要。まずは一人ひとりがよく生きる。次に社会という共同体のあり方を考える。木をみて森もみる。その視点を多くの人が持つことが、幸せな世の中につながっていく。

 

 

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