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ライフ

未来人Vol.13 流石 学 さん

“ 地域に誇りを持つ 未知への挑戦を続ける『四国水族館』 ”

 

これからのまちづくりに尽力する「未来人」との対談を通して、

住みやすい理想の街を考える。

 


Profile

(左から順に)

株式会社 四国水族館開発 代表取締役 流石 学 さん

好きな食べ物/寿司

趣味/ランニング

1978年山梨県生まれ。『四国水族館』の運営会社、医療コンサルタント会社の代表として、医療と地方創生のダブルテーマを掲げて全国で活動している。

 

地域交流会「テラロック」主宰 寺西 康博 さん

好きな食べ物/うどん

趣味/人と話すこと

1985年、高松市生まれ。実家は讃岐うどん店。地域の若手とプロジェクトチームを組み挑んだ地方創生のアイデアコンテストで、2年連続日本一となった。多様な人が意見を交わす交流会「テラロック」を主宰。共感を生み出し、認知を揺さぶる場をつくり続ける。

 

これからのまちづくりに尽力する「未来人」との対談を通して、住みやすい理想の街を考える。

 

『四国水族館』(香川県宇多津町)は、20206月にオープンした四国の次世代型水族館。鳴門のうずしおや太平洋の黒潮など、四国の海や河川の織りなす景観を再現する。まるで水中を散歩しているような居心地のよさが特徴。魚名板を設置しないのは、水中の世界観を感じてほしいからだ。運営会社である『四国水族館開発』代表の流石学(さすがまなぶ)さん(42)は、医療の経営コンサルタントとしての顔も併せ持つ。かつて島根県で地域医療の充実に取り組んだ異色の経歴で、地方創生の観点から水族館を経営する。流石さんが大切にしているのは「住民が地域を誇りに思うために、水族館は何ができるか」という視点。『四国水族館』のブランド化が地域の誇りにつながると信じている。前例のない立地条件にコロナ禍での船出。試練は続くが、リモート見学、夜の開館、バックヤードツアーなど歩みを止めない。さらには、四国各地の水族館が一体となり、四国の魅力を発信する未来図を描く。「四国に行くなら四国水族館」と認知され、地域の「誇り」になるため奮闘を続ける流石さんに話を聞いた。

 

▽ 意識の変化

寺西  いい街とは。
流石  住民が地域に誇りを持っていること。私が水族館を経営する心のよりどころは「子どもたちが進学や就職で香川県を離れても、ふるさとに誇りを感じてほしい」との思い。水族館で貢献できることがあると信じている。

寺西  流石さんの活動の原点は。

流石  東京の経営コンサルティング会社で働いていたとき、「高齢化率の高い地域に住めば、日本の未来の姿が見えるのでは」と思い、島根県に移住した。島根では地域医療の充実を目指すプロジェクトに取り組んだ。そのなかで、地域に住む方々の単なる利便性や経済合理性では語れない想いを感じるようになった。本当の意味で「幸せに生きるとは」について考えたとき、誇りは重要な因子だと感じた。

寺西  2014年に始まった水族館プロジェクトをけん引してきた。

流石  水族館の誘致は宇多津町にとって過去からの悲願。行政や関係企業との調整役として一時的に代表を任され、気がつけば今もやっている (笑)。地方創生の文脈で前に進め、住民の意識に変化を起こしたい。水族館のオープン前に住民説明会を開いた。地元の方から「都会の一流の水族館ならともかく、当町の水族館でこの料金は高すぎる」と言われた。私は「一流の定義はともかく、一流の水族館だと自信を持っている」と話した。都会がすべて優れているわけでは決してない。地方が優れていることも多い。「自分の町に良いものはない」という思い込みを壊したい。

 

▽ 未知への挑戦

寺西  2度の延期があり2020年6月にオープン、コロナ禍の船出となった。

流石  苦悩したが、考え抜くと「結果として良かったのでは」と思えるようになった。当初の計画では初年度に120万人の来館を見込んでいた。実際は1年間で75万人とかなり下回った。ただ、来館者の満足度は、混雑状況と相反する。物理的にゆとりがある環境は、満足度を押し上げた。それに、開館初期はオペレーションなど改善の余地が多大にある。はじめて訪れたときに悪い印象を持てば、再訪はない。それならば、初年度に来館者が集中するより、例えば5年間で分散して来てくれたほうが良い。コロナ禍で来館者数が平準化することは、20年、30年の長期的な目線では好材料と捉えている。

寺西  立地の特徴は。

流石  一般的な水族館の商圏は車で6090分程度。すると、四国各県、岡山県、兵庫県西部、広島県東部まで入る。この規模の水族館を香川でやるならここしかないという立地。日本人が水族館に行く回数は平均で年0.3回。つまり3年に1回程度。成功への課題はどうやって90分圏外からも多くの方に来てもらえるか。さらに今後は訪日外国人旅行者の来館も見据える。

寺西  異業種から水族館の経営者になり、奮闘を続ける

流石  実は、『四国水族館』の立地は、日本の水族館のなかでは特殊なもの。1970年代は有名なリゾート地の近くに民間企業が水族館を建設した。1980年代から1990年代は、海浜エリアに主に自治体が大規模の水族館を開館。人工海水の技術が進歩した2000年代以降は、東京スカイツリータウン内の『すみだ水族館』(東京都)など、都会の複合商業施設内にできはじめた。『四国水族館』はどのパターンにも当てはまらず、これまでの経営の常識は通用しない。固定観念にとらわれない大胆な挑戦が必要だ。

 

▽ 四国の玄関口

寺西  地域にとってどのような存在を目指すか。

流石  「地方創生の水族館」と認知されることを目指す。そのために、観光客の「観光拠点」、そして地元の人の「文化拠点」になる。挑戦の蓄積が『四国水族館』独自のブランドを築く。ブランドとなり、はじめて地域の誇りになれる。住民が地元の価値に気づく場所にしたい。そのために自治体や大学、地元企業やプロスポーツチームなどとも連携を深めている。また、子どもたちが環境問題に関心を持つきっかけづくりをしている。

寺西  子ども向けの具体的な取り組みは。

流石  初年度は、オンラインで水族館内を見学するイベントや長期入院中で屋外に出られない子どもたちがリモートで水族館を見学する取り組みを行った。9月には全国各地の水族館等と一緒に、オンラインで海の環境問題が学べる謎解きゲーム「海なぞ水族館2021」にも参画。10月にはオンラインの出前授業を奈良県の小学生に実施する。

寺西  「四国」を冠する水族館にした理由は。

流石  冠は水族館の展示テーマを示すものでもある。四国水景という展示テーマに加え、「四国・瀬戸内地域の振興、発展に寄与する」というミッションもあり、この名前にした。玄関口となり、四国を知り訪れてもらうきっかけをつくりたい。『沖縄美ら海水族館』(沖縄県)は、生き物の個性を際立たせる展示手法で革命を起こしブランド化した。結果、那覇空港から車で約2時間の立地にかかわらず、多くの観光客が美ら海水族館に行く。『四国水族館』のキーワードは地方創生。地方創生の文脈ではじまった民設民営の水族館。四国の水中世界の魅力を伝えること、そして常に新しい価値をつくり出し「四国に行くなら四国水族館」とならないと、20年後には存在しないかもしれない。

寺西  鳴門のうずしおや黒潮など四国の水景を再現した展示が特色。

流石  一般的な水族館にある魚名板がない。魚の写真や説明と泳いでいる魚とを一致させて満足するのではなく、四国の水中の世界観を感じてほしい。当初は、飼育員が展示生物や内容を解説する予定だったが、コロナ禍でできなくなった。来館者から不満の声も上がったが、魚名板はつけない。妥協すると、個性がなくなり普通の水族館になる。そこで飼育員による黒板解説ボードを設置した。表現に対する厳しい意見は、尖った取り組みができているかの指標でもある。尖りは熱狂的なファン、リピーターの獲得につながる。「まるで水中にいるよう」などと水族館に居心地の良さを求める女性を中心に、ファンになってくれる人も多数いる。この数、割合を増やすことが重要だ。

 

▽ 道のり

寺西  四国内の水族館との連携は。

流石  「四国圏域水族館ネットワーク構想」がある。例えるなら、『四国水族館』は百貨店型。他の水族館は、個性のある専門店型。持ちつ持たれつの関係が築ける。ウミガメなら『日和佐うみがめ博物館カレッタ』(徳島県)、生き物との距離の近さなら『桂浜水族館』(高知県)など。私の勝手な構想は「四国全体を一つの水族館のテーマパークにすること」。四国は一度では回り切れない面積規模。「水族館」というコンテンツで四国が他エリアから注目され、リピートされる場所になれば。東日本の人が旅行先を選ぶとき、四国の優先順位は決して高くない。順位を上げるには、まず何かで興味を持ってもらうことが大切。

寺西  夜の水族館、ペンギンのえさやり体験、バックヤードツアーなどの企画を次々に仕掛けている。最後に一言。

流石  居心地がよく自由に楽しめる水族館。海豚(イルカ)プールは、瀬戸内海に沈む夕日を背景にイルカが遊ぶ。あの景色は、他では再現できないオンリーワンのもの。心地よい海風を感じながら思い思いに楽しんでほしい。地域の「誇り」となるための道のりは長く、何十年もかかるだろう。決して歩みを止めず、挑戦し続ける。

 

写真提供:四国水族館

PICK UP NEWS!

写真提供:四国水族館

 

四国水族館×丸亀市  ニッカリ青江公開コラボ企画展「ニッカリさかな展」を開催!

開催期間:10月16日(土)~11月21日(日)

『丸亀市立資料館』で開催される「名刀見参―京極家の宝刀ニッカリ青江公開―」に合わせたコラボ企画展。期間中、刀や鎧、丸亀市の文化や特産品に関連する生きもの達を展示。また、館内飲食店『キッチンせとうち』では、期間限定のコラボメニューを販売!

 

 

SHOP DATA

四国水族館

住所
香川県綾歌郡宇多津町浜一番丁4
TEL
0877-49-4590
料金
大人(高校生・16歳以上)2,200円、小中学生1,200円、幼児(3歳以上)600円、3歳未満無料
営業時間
9:00~18:00(最終入館17:30)※営業時間は季節により異なる
定休日
年中無休 ※冬季にメンテナンス休館あり