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ライフ

未来人Vol.14 近江 淳 さん 岸本 浩希 さん 楠木 泰二朗さん

“ つながりが生む変革の息吹 関わりしろが地域の魅力に ”

 

これからのまちづくりに尽力する「未来人」との対談を通して、

住みやすい理想の街を考える。

 

Profile

(左から順に)

『株式会社 地方創生』 代表取締役社長 近江 淳 さん

好きな食べ物/カレー

趣味/エアロビクス

大学卒業後、3社勤務し2008年に起業。2014年よりパソナグループの一員として地域活性化事業に取り組む。

「ワクワク、ドキドキ、アツアツな街にしたいよね。」

 

『栞や』 店主 岸本 浩希 さん

好きな食べ物/茶碗蒸し

趣味/ダンス

1988年岡山県生まれ。移住をきっかけにカフェ&ギャラリー『栞や』を開業。アーティストたちと商品開発やイベント企画などもしている。

「こんぴらさんが作ってきた文化と風土を大切にしながら行動を起こしていきたいです。」

 

『琴平バス株式会社 コトバスセールス&ツアーズ』 代表取締役 楠木 泰二朗さん

好きな食べ物/うどん

趣味/うどん店巡り

“Something New!”“Smile & Hospitality”をコアバリューとし、うどんタクシー、オンラインバスツアー等を企画・運営。日本ご当地タクシー協会理事長。

「各々がやりたいことを面白がってできる街は魅力的!」

 

地域交流会「テラロック」主宰 寺西 康博 さん

好きな食べ物/うどん

趣味/人と話すこと

1985年、高松市生まれ。実家は讃岐うどん店。地域の若手とプロジェクトチームを組み挑んだ地方創生のアイデアコンテストで、2年連続日本一となった。多様な人が意見を交わす交流会「テラロック」を主宰。共感を生み出し、認知を揺さぶる場をつくり続ける。

 

これからのまちづくりに尽力する「未来人」との対談を通して、住みやすい理想の街を考える。

「こんぴらさん」の愛称で知られる金刀比羅宮(ことひらぐう)の門前町、香川県琴平町。江戸中期から盛んになった「こんぴら参り」などで、1988年には年間520万人の観光客が訪れた、県を代表する観光地だ。ただ、同年以降は減少傾向が続き、2019年は263万人。新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年は153万人となった。そのような中、同町を「誰もが何度も訪れる町に」と、こんぴら参りの趣と共に新たな魅力をつくり出すプロジェクトが民間主導ではじまった。

その一つ、アーティストらが滞在し創作活動ができる拠点づくりを進めるのは、金刀比羅宮の参道近くで栞(しおり)の販売などを手掛ける『栞や』の岸本浩希さん。オンラインバスツアーを仕掛けた琴平バス(琴平町)社長の楠木泰二朗さんから参道前の6階建てビルを借り受け、自ら改装作業に取り組む。

2020年4月に参道近くの商店街に『琴平文具店』を開いたパソナグループの地方創生(東京)社長の近江淳さんは、プロジェクトの広報を担いつつ、新しい人の流れを生む取り組みを率先して進める。近年、移住した若者による飲食店の開業が続くなど、変革の息吹が芽生える琴平町の現状を聞いた。

▽ つながり、混ざる

寺西  琴平町の新たな魅力を創出するプロジェクトでは何を目指しているか。

楠木  琴平に複数回訪れてくれる人を増やしたい。指標の一つは、県内の若者が気軽に足を運んでくれるか。近年、琴平には「カレー三銃士(栞や・麻心・Kotier)」、『果桜軒』、『ヒトツブビーズ店』など、そこで働く人が魅力的で、再訪したくなる店ができている。何度も訪れたい場所がたくさんある街は強い。県内の若者や地元住民に愛されるモノやコト、街をつくることが重要。それが今後の観光客の増加につながると仮説を立てた。

寺西  プロジェクトの発端は。

楠木  町内で人どうしのつながりが強くなったことだ。近江さんが『琴平文具店』を開業したことは一つの転機。近江さんは、町内外の事業者でつくる「地方創生ラーニングツーリズム」の企画など、琴平で新たな取り組みを次々と仕掛けている。おかげで、ゆるいつながりができた。

近江  コロナ禍で、こんぴらさんに頼りすぎていたことが可視化された。プロジェクトでは、昔からの琴平の事業者と私のような新参者が混ざり合い、主体的に動いている。行政、経済団体、金融機関とも連携している。人にひもづいた事業。人と人とのつながりから、琴平の「関わりしろ」をどれだけつくれるかの挑戦だ。

 

▽ 生み出す街へ

楠木  私も「町内で活動する人どうしで顔の見える関係を築くことが必要」と感じ、ポストコロナ時代の観光を考える勉強会を今年2月に開いた。会で岸本さんの想いに触れたことで、プロジェクトの一つ「アーティスト&クリエイター・イン・レジデンス」の構想が生まれた。

岸本  2018年に琴平に移住し、妻の祖父が保有する空き家で事業を始めた。こぢんまりと自分の世界を表現できればいいと思っていた。最近になって、琴平で事業に取り組む同世代の友人ができ、楠木さんに誘われた勉強会で地元の個性豊かな経営者に出会った。もともと『栞や』にアーティストが短期滞在し創作活動ができるようにしていた。「アーティストやクリエイターの活動拠点や交流の場がもっと必要」と楠木さんに話したら、「参道前のビルが空いている」と言われた。老朽化したビルが生まれ変わり、多様な人が交流する未来に可能性を感じた。まさかこんなことになるとは想像もしていなかった。

楠木  アーティストらが滞在して創作活動を行う過程や作品は強力な誘客効果があると思う。新たな客層の開拓だ。作品は、空き店舗や既存店舗内で販売できるようにしたい。将来は、滞在したアーティストらが琴平で店舗を構える流れをつくりたい。関係人口の案内所の役割も担う。琴平に人が集まれば、様々な事業者にビジネスチャンスがもたらされる。

岸本  ゲストハウスを併設し、観光客、地元住民、アーティストらの交流が生まれる場所にしたい。6月に実施したビルの改装作業には、東京、兵庫などからも手伝いに来てくれた。何かをつくる過程を楽しむ人がいる。地域は「関わりしろ」を持っておくことが大切。抽象的な表現だが、消費する観光から生み出す観光への変化を感じている。

▲現在改装中のビル内の様子。県内外から「手伝いたい」という人たちが訪れた。

 

▽ 新しい観光

寺西  近江さんは2020年4月に、参道近くの商店街に『琴平文具店』を開いた。

近江  将来的な移住定住を目指した認知向上(シティプロモーション)事業を全国各地でしてきた。いつか地域に根差し活性化に関与したいと考えていた。琴平の商店街再生の話を聞き、面白そうだと直感した。人の流れをつくり出す拠点として文具店を開いた。コロナ禍の開業となり、当初の予定よりも定休日を増やし営業時間を短縮することになった。それでも歩みを止めるつもりはない。小売店のノウハウや経験はなかったが、店長の伊藤と「新しいお土産をつくる」と取り組んだ。店内で作るオリジナルノートが目玉。ノートを作るために琴平に足を運ぶ人がいる。地元の伝統工芸品や地域事業者と連携し、表紙カバーなど商品開発も計画している。

寺西  文具店を拠点に、様々な主体と連携して、人がつながる企画や枠組みをつくっている。

近江  穴吹デザインカレッジ(高松市)の学生が新町商店街をテーマに制作したポストカードを文具店で展示した。視座を高めようと「香川ワーケーション協議会」を2020年11月に設立した。県単位で生まれた人の輪を琴平に還元できた。今の琴平は、地域内外の人がいい塩梅で動いている。他県の大学のインターンシップを『琴平文具店』で受け入れた際には、町長、地域おこし協力隊、それに楠木さんなど地元企業が協力してくれた。また、今月下旬から若者向けモニターツアーにも取り組む。『ゲストハウスZouZu』に宿泊し、食事は『Kotier』や『麻心』で提供する。『栞や』と『染匠 吉野屋』のワークショップを体験し、それぞれの店主の想いに触れてもらう。それが琴平を再訪する動機になる。琴平で「新しい観光」をつくりたい。

楠木  三豊市でのプロジェクトに関わり、地域内外の人がうまく交わることで新しいものが生まれると感じた。琴平でもそれが起こりつつある。インバウンド(訪日外国人旅行者)が伸びていたとき、街の小さな課題は見過ごされてきた。コロナ禍は街全体に危機感をつのらせ、変化や新しいものを求める機運を高めた。

岸本  楠木さんと近江さんは、挑戦できる場所をつくってくれる。僕が好きにやることをあたたかく見守ってくれ心強い。喜び、感謝、重圧が入り混じった感情だ。『栞や』のコンセプトは「人生というひとり旅を彩る」。人生を旅と捉え、色々な感性に触れたり、内省の時間を持つ機会を提供する。琴平は旅人が世界中から集まってきた場所。自分の店も誰かの人生の道しるべになれれば。

▲『琴平文具店』のオリジナル「kotoノート」のサンプルディスプレイ。

 

 

▽ 三者三様

寺西  琴平をどんな街にしていきたいか。

近江  ワクワク、ドキドキ、アツアツな街にしたい。当社の経営理念は「ワクワクする希望、ドキドキする期待、アツアツの情熱に満ち溢れた未来の礎を築く」。情熱を持ち行動し続ける。

楠木  各々がやりたいことを面白がってできる街。お互いの挑戦に寛容になり、協力できる部分を探す。それには顔が見える関係と他者の想いを知ることが重要。街に関わりしろがたくさん生まれ、結果としてみんながより幸せになることが理想的。

岸本  これまで自分がやりたい、面白いと思うことをやってきた。それに共感してくれた人と新しいものをつくった。それぞれが主体的に行動し個性を伸ばせば、いつか一緒にできることが生まれる。それを積み重ねて、結果として街が盛り上がればうれしい。こんぴらさんがつくってきた文化と風土を大切に、自分のできることを楽しみながらやっていきたい。  

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