日本における2万3千の企業グループ(企業全体の4.6%)のうち、売上金額100億円を超えるのは約2割である(平成26年・経済センサス)。今回登場する二人は、長きにわたり高松市に本社を構え、売上高が100億円を超える企業の若手経営者だ。
まず、小型船舶用ディーゼルエンジンを製造するマキタ(高松市、1910年創業)代表の槙田裕さん(37)。マキタはドイツのMAN社からライセンスを得た船舶用エンジンを生産している。数万点の部品を精密に組み上げ、高い耐久性を実現した小口径エンジンで、世界トップクラスのシェアを持ち、保守事業にも力を入れる。
そして、インフラ関連資材の販売などを手がける大豊産業(高松市、1949年創業)代表の乾和行さん(38)。大豊産業は、インフラ整備、省力化、新エネルギーなど幅広い事業を展開する。近年は企業買収を積極的に進め、産業用ロボットの開発にも取り組む。商社として培った顧客の課題を解決する提案力、提案を実現する技術力の両輪が中核となる強みだ。
二人が共通して訴えたのは、視野を広げる、変化する、挑戦することの大切さ。それぞれが思い描く、いい街について語ってもらった。
▽ 開かれた街
寺西 いい街とは。
槙田 文化やエンターテインメントのある街。趣味の旅行で100か国ほどを訪ねた。魅力的な街には芸術やスポーツが根差していた。芸術の観点では香川県は世界でも高い水準に達している。瀬戸内国際芸術祭、高松国際ピアノコンクール、直島など。他方、エンターテインメントは発展途上。Jリーグは発足から約30年継続して各地域に浸透した。香川県内の各種プロスポーツチームも、活動し続けることが大切。熱狂できるコンテンツがあることはいい街の条件だ。
乾 人が優しい街。優しくあるには日常の生活が満たされていることが大切。私たちは豊かな生活を支えるインフラを整備している。外部の知識や四国外に容易にアクセスできることも重要だ。例えば、東京と地方ではテレワークの定着に差があるし、海外と比較すればさらに違うこともある。東京に人員を配置することで、現地からの情報を得て、新しい地域や分野に事業の領域を拡大している。そうして得た知見やノウハウを四国内に持ち込み展開している。
槙田 外の良いものを取り入れ、変化する土壌を香川で育てることが大切。高松市がスーパーシティに採択されれば、新しい土壌が生まれイノベーションを誘発するのでは。プラットフォームに人が集まり、考え方や価値観をかけ合わせることが、イノベーションにつながる。
▽ 変わる世界、変える未来
寺西 世界的に環境問題への関心が高まる。経営はどう変化するか。
槙田 世界的な動きとして、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス(GHG)削減が掲げられ、規制が強化される。現在は船舶用エンジンの燃料に重油を使用しているが、将来的にはアンモニアや水素などに置き換わるだろう。今後はより環境に良いことと経済性の両方を考えなければならない。
乾 創業時から環境と経済の両立を目指してきた。四国内の電柱の約6割を手がけ、太陽光発電などの再生可能エネルギー事業を行う。電気、鉄道、道路などインフラ関連資材の卸売りをはじめとした多様な事業はSDGsに直結する。環境と経済の両立は今後の事業成長の起爆剤になるだろう。
寺西 鶏舎の中の死亡鶏を人口知能(AI)で検知する自走式装置「Robo cocco(ロボコッコ)」を開発した。
乾 深刻な人手不足に悩む養鶏事業者は多い。「ロボコッコ」は見回り作業の負担軽減と死亡鶏の早期発見を可能にした。開発には、香川大学、産業技術総合研究所、出資先のセンシンロボティクス(東京)など様々な組織を巻き込んだ。他地域や海外への販売、他用途への転用も見込む。開発のきっかけは、経営者の困りごと。私たちは年間約4,000社と取引する商社であり、グループ内の社員の半数以上が技術職。商社機能と技術が融合している強みを生かし、顧客の悩みを解決する。
寺西 「2021ロボットアイデア甲子園」の四国大会を開催・運営した狙いは。
乾 高校生がロボットの実機に触れる機会をつくりたかった。都市部と比較し、機会と情報が圧倒的に不足している。生徒の将来の選択肢が増えたらうれしいし、自身の興味関心を人に伝える練習になる。四国は急速な人口減少が進むが、ロボットや機械で人の作業を代替する動きが鈍いと感じる。
槙田 歴然とした教育格差も大きな課題。僕は神奈川県の高校に通った。もっと早く外に出ていれば違う人生や選択肢があったのでは、と思うことがある。いい街をつくるには教育の議論は欠かせない。子どもたちが多くの分野を学べる機会と場所が必要。そこでの気づきや経験が人生の原動力になることもある。
▲自走式装置「Robo cocco(ロボコッコ)」
死亡鶏を自動検知するロボット。今後は、三豊AI開発との取り組みも行っていく予定。
▽ やわらかく、尖る
寺西 コロナ禍の影響は。
槙田 海上運賃の高止まりで海運業界は好調。ただ、船舶用エンジンのアフターサービスは海外の顧客が6割以上。ウェブ会議システムは活用しているが、実際に顔を合わせることの重要性を再認識した。社員が海外に渡り、視野を広げる機会が減ったことも問題。それに工場の停止で資材の納入が遅れるなどの悪影響がある。
乾 事業をとにかく多角化してきた。コロナ禍で航空機関連の売り上げは落ち込んだが、土木工事関連は増加し、総売上高は維持できた。石油、化学、通信、鉄道、鉄鋼など14業種業態別に担当者を置き管理をしている。医療介護と農業畜産も新たに加え、今後はさらなる多角化を進める。今年からEV(電気自動車)のシェアリング事業も開始する予定だ。
寺西 変化の激しい時代。どのような人材を求めるか。
槙田 「ものづくりが好きで仕方ない」など、尖った人材。新しいことにチャレンジする姿勢も欠かせない。社員の平均年齢が約35歳。激しい環境変化の中で会社が生き残るためには、働き方も変わらなければ。テレワークでは、よりシビアに結果が求められる。自社の強みは、常に変化を求め成長スピードの速い社員たち。年功序列は無用の長物になるかもしれない。組織の硬直化を防ぐには中途採用が有効だ。異なる価値観を持つ人が入ることで化学反応が起きる。
乾 その道のプロフェッショナル。営業に専念できる環境をつくるため、物流業者に倉庫の管理や配達を委託した。営業の仕事は顧客の悩みを聞いてくること。そして、技術担当と一緒に解決策を提案すること。社員全員が社会から求められる人材に変化することが必要。服装の自由化や禁煙などの社内改革は、誰かが責任を引き受け決断しなければならない。とにかく信念を持ちやるべきことを一貫してやる。持続可能な社会に利することに注力する。
寺西 地域の元気のために。
槙田 地元企業の支援が必要。そうしないと、必要なものがなくなり地域の魅力が失われる。私たちは瀬戸内国際芸術祭、高松国際ピアノコンクール、香川ファイブアローズ、カマタマーレ讃岐などに協賛している。ただ、ビジネスモデルは、企業が企業に対してモノやサービスを提供するもので、香川県内の取引先は少ない。社名で別会社と勘違いされることもあり、率直に言うと、スポンサーになるメリットは大きくない。それでも、地域の元気を守るために支援を続ける。真に価値あるものが見過ごされている。香川県の魅力を誇り、守り続けることを、どれだけの人ができるかだ。
乾 電気や鉄道などのインフラに私たちが関わっていることを多くの人は知らないだろう。縁の下の力持ちでいたい。僕が代表になってから3年で、今治市と宇多津町に営業所を新設し社員は40名ほど増えた。都市部や海外で事業をしていると「四国を捨てたのか」と言われることがあるが、そうではない。四国で役立てることがまだまだあると思っているし、私たちの成長が地域の元気につながるようにしたい。資源はある。点と点をつないで線に、そして面にして元気な四国をつくっていく。
寺西 最後に、いい街に向けて。
槙田 讃岐うどんは全国的に認知された。次は芸術だ。香川県がアートの街とは意外に知られていない。日常でアートに触れられる機会をさらに増やすことが大事。アートの街としてのブランディングは差別化になるし、いい街づくりにつながる。強みを伸ばしていかないと。
乾 異なる価値観の人たちが集う濃密なコミュニティーが必要。タイでは、異業種だらけの小さいコミュニティーでビジネスの話がどんどん進んだ。他方、都市部の情報も積極的に集めにいかないと立ち遅れる。危機感を持ち行動できるかだ。
▲多彩な個性や能力を持った人が活躍する『株式会社マキタ』。
会社概要
株式会社マキタ
香川県高松市朝日町4-1-1
TEL:087-821-5501
大豊産業株式会社
香川県高松市寿町1-1-12 パシフィックシティ高松ビル9F
TEL:087-811-4567